
お気に入りの革靴を長く愛用していると、日常の歩行で付着するホコリや泥汚れはもちろん、目には見えない汗や湿気が内部に蓄積していきます。
そんな時、「家庭にあるエマールやアクロンといったおしゃれ着用洗剤で、手軽にすっきり水洗いできないだろうか」という考えが頭をよぎることもあるでしょう。
しかし、その手軽さに惹かれて安易な方法で革靴の丸洗いやドブ漬けに挑戦すると、革が縮んだり、質感が変わってしまったりと、取り返しのつかない失敗につながり、深い後悔を招く可能性があります。
特に、革靴のケアにおいては、適切な洗剤の選び方が極めて重要です。
また、丸洗い後の乾燥方法や必要な乾燥時間、見落としがちな革靴の中の洗い方、さらには代用品として考えがちな食器用洗剤の可否、そしてそもそもどのくらいの頻度で手入れすべきかなど、疑問点は多岐にわたります。
この記事では、「革靴を水洗いしたいけれど、エマールを使っても本当に大丈夫なのか」という核心的な疑問を抱えるあなたのために、科学的な根拠に基づいた失敗しないための知識と、具体的な手順を網羅的に、そして深く掘り下げて解説します。
革靴の水洗い、エマール使用の基本知識
- 革靴を水洗いしても大丈夫?
- エマールは水洗い不可ですか?
- 革靴を水洗いすると縮む?失敗例
- アクロンや食器用洗剤など代替洗剤は?
- 革靴をボディソープで洗うには?
革靴を水洗いしても大丈夫?

結論から言うと、多くの革靴は自分で正しく手順を踏めば水洗いすることが可能です。
ただし、これはすべての革靴に当てはまるわけではなく、革の種類や製法によっては深刻なダメージを受けるリスクがあるため、事前の見極めが不可欠です。
そもそも、「革は水に弱い」というイメージが強いですが、革靴が大雨でずぶ濡れになる状況と、意図的に水洗いする状況は、革が水分を吸収する点では本質的に大きな違いはありません。
むしろ、酸性雨や大気中の汚染物質を含む雨水よりも、不純物のない清潔な真水で洗う方が、革のコンディションを良好に保てるという専門的な見方もあります。
水洗いの最大のメリットは、革の繊維の奥深くに染み込んだ汗や雨水由来の塩分(塩吹き)、そして臭いの原因となる雑菌を根本から除去できる点にあります。これらは表面的なクリーナーだけでは落としきれない汚れであり、リフレッシュ効果は絶大です。
水洗いができない・避けるべき革靴の例
- アニリン仕上げの革: 水性の染料が使われており耐水性が低いため、深刻な色落ちやシミになりやすい。
- エナメルレザー: 表面の樹脂コーティングが劣化し、光沢が失われたり、ひび割れの原因になったりする。
- 爬虫類・特殊革(クロコダイル、リザードなど): 非常にデリケートで、水によって鱗が浮いたり、質感が大きく変化したりするリスクがある。
- 起毛革(スエード、ヌバック): 水洗い自体は可能だが、専用シャンプーとブラシ、専門知識が必要となる。
一方で、一般的なビジネスシューズやワークブーツに使用される堅牢なスムースレザー(銀面付きの革)であれば、これから解説する正しい手順を踏むことで、内部の汚れや臭いを解消し、見違えるほど清潔な状態に戻すことが可能です。
水洗いは革にとって大きな環境変化を強いる行為でもあるため、そのメリットとデメリットを天秤にかけ、自己責任で行う覚悟が求められます。
エマールは水洗い不可ですか?

おしゃれ着用の中性洗剤であるエマールを革靴の水洗いに使用することは、専門的な観点から強く推奨されません。
多くの洗剤メーカーや皮革製品の専門家が、エマールをはじめとする衣類用洗剤の革製品への使用を非推奨としています。
その最大の理由は、革の生命線とも言える油分を過剰に奪ってしまう可能性が非常に高いからです。
動物の皮から製品の「革」へと生まれ変わる「なめし」という工程では、革の柔軟性、耐久性、そして美しさを保つために様々な油分(加脂剤)が繊維の内部に浸透させられています。
エマールのような衣類用洗剤に含まれる界面活性剤は、繊維に付着した皮脂や汚れを効率的に剥がし、水に溶かして洗い流すことを主目的として設計されています。
この強力な洗浄作用が、革に対しても同様に働き、本来革が保持すべき必要不可欠な油分まで根こそぎ除去してしまうのです。
油分を失った革は、人間の肌で言えば極度の乾燥状態に陥ります。その結果、革の繊維が硬化してゴワゴワになったり、柔軟性を失って歩行の際にひび割れ(クラック)を起こしやすくなったりします。
専用洗剤(サドルソープ)との違い
革靴専用の洗浄剤である「サドルソープ」や「レザーウォッシュ」は、洗浄成分に加え、ラノリンなどの天然保湿成分や加脂剤が配合されています。
これにより、汚れを効果的に落としながらも、洗浄中に失われる油分を同時に補給し、革の潤いと柔軟性を維持することができます。これは、洗浄と保湿を一度に行う、革専用の処方なのです。
もし、どうしても他に選択肢がなく、上級者が自己責任でエマールを使用する場合でも、ごく少量をぬるま湯で通常の洗濯時よりもはるかに薄く希釈し、洗浄後は半乾きの状態でデリケートクリームやミンクオイルなどで徹底的に油分を補給する作業が必須です。
しかし、この方法は油分補給の加減が非常に難しく、革へのリスクが極めて高いため、大切な革靴を安全にケアしたいのであれば、専用の洗剤を使用することが最も賢明で確実な方法です。
革靴を水洗いすると縮む?失敗例

はい、革靴は水洗いの後の「乾燥」工程を誤ると、顕著に縮む可能性があります。
これは、水洗いにおける最も一般的で、かつ修復が困難な失敗例の一つです。
この現象の背景には、革の主成分であるコラーゲン繊維の物理的な性質があります。コラーゲン繊維は水分を含むと、繊維同士の結合が緩んで膨張します。
そして、その後の乾燥過程で水分が蒸発する際に、繊維同士が再び強く結びつこうとして収縮します。この収縮が穏やかであれば問題ありませんが、急激な乾燥は繊維の過剰な収縮を引き起こし、結果として革全体が縮んで硬くなってしまうのです。
特に、以下のような乾燥方法は失敗の典型例と言えます。
急激な乾燥による失敗
一刻も早く乾かしたいという焦りから、ドライヤーの熱風を直接当てたり、日当たりの良いベランダに干したりする行為は、革にとって致命的です。
60℃を超える熱が加わると、革のコラーゲン繊維は不可逆的な変性を起こし、極端に収縮・硬化します。さらに、表面だけが急激に乾くことで、内部との収縮率の差から深刻なひび割れ(クラック)が生じる原因にもなります。
型崩れを招く失敗
洗浄後、濡れて柔らかくなった革を無造作に放置すると、靴の自重や不自然な角度によって歪んだまま乾燥が進み、元に戻らない型崩れを起こします。
また、逆に良かれと思って濡れた直後にサイズの合わないシューキーパーを無理に挿入すると、革が必要以上に伸びきってしまい、ブカブカの靴になってしまうこともあります。
失敗を回避する乾燥の鉄則
これらの失敗を避けるための鉄則は、「風通しの良い日陰で、時間をかけて自然乾燥させること」です。洗浄後の丁寧な水分除去と、後述する「半乾き」のタイミングでのシューキーパーの挿入が、革靴の形状とサイズを維持するための鍵となります。
アクロンや食器用洗剤など代替洗剤は?

エマールと同様の理由で、アクロンなどの他のおしゃれ着用洗剤も革靴の水洗いには推奨されません。
さらに、油汚れに強い食器用洗剤の使用は、革に深刻なダメージを与えるため、絶対に避けるべきです。
おしゃれ着用洗剤(アクロンなど)
アクロンもエマールと同様に、衣類の繊維を優しく洗うための中性洗剤です。
しかし、その処方はあくまでウールやシルクといった動物性「繊維」を対象としており、なめし加工を施された「皮革」の構造を維持するように作られてはいません。したがって、革の油分を必要以上に奪ってしまうリスクはエマールと変わらないと考えるべきです。
食器用洗剤
食器用洗剤の多くは、頑固な油汚れを効率的に分解するために弱アルカリ性の性質を持っています。
革は本来、弱酸性の状態が最も安定しており、アルカリ性に傾くと繊維構造がもろくなり、ダメージを受けやすくなります。
食器用洗剤で洗うと、その強力な脱脂作用によって革の油分がほぼ完全に除去され、乾燥後には革が極端に硬化し、まるでプラスチックのような質感になってしまう可能性があります。これは元に戻すことが極めて困難な、深刻なダメージです。
以下の表は、各洗剤の特徴と革への影響をまとめたものです。
洗剤の種類 | 主な性質 | 革への影響(デメリット) | 推奨度 |
サドルソープ | 弱酸性〜中性 | 保湿・加脂成分を含み、適切に使用すればデメリットは少ない | ◎ 推奨 |
エマール/アクロン | 中性 | 油分を過剰に除去し、硬化や縮み、風合いの変化を招くリスクが高い | × 非推奨 |
食器用洗剤 | 弱アルカリ性 | 油分を完全に除去し、革の繊維構造に深刻なダメージを与える | ×× 絶対不可 |
ボディソープ | 弱酸性〜弱アルカリ性 | 香料や保湿剤などの添加物が残留し、シミやカビの原因になる可能性がある | × 非推奨 |
これらの化学的・物理的な理由から、大切な革靴を安全に水洗いするためには、遠回りに見えても革専用に開発されたサドルソープやレザーウォッシュを選択することが、結果的に最も賢明で確実な方法と言えます。
革靴をボディソープで洗うには?

「人間の肌と同じ弱酸性のボディソープなら、革にも優しいのではないか」という発想は、一見すると理にかなっているように思えるかもしれません。しかし、ボディソープを革靴の洗浄に使用することは、多くのリスクを伴うため避けるべきです。
人間の「肌」と、動物の皮を加工した「革」は、どちらも主成分がタンパク質である点は共通していますが、その構造と機能は全く異なります。
生きている肌には、皮脂を分泌して潤いを保つ自律的な機能や、ダメージを修復する能力が備わっています。一方、革は「なめし」という化学処理によって組織を安定化させた素材であり、自己修復能力や水分・油分のバランスを自律的に調整する機能は完全に失われています。
ボディソープには、洗浄成分以外にも様々な添加物が含まれています。
- 香料: 残留すると、特定の虫を引き寄せたり、時間とともに酸化して変質の原因になったりする可能性があります。
- 保湿剤(グリセリンなど): 革の表面に残り、ベタつきの原因となったり、湿気を呼び込んでカビの発生を助長したりすることがあります。
- 着色料や防腐剤: これらの化学物質が革の染料と予期せぬ化学反応を起こし、シミや変色を引き起こすリスクがあります。
前述の通り、革のケアは「汚れを落とすこと」と「失われた油分を補給すること」が常にセットで考えられるべきです。
洗浄のみを目的とし、革にとって不要な成分を多数含むボディソープの使用は、長期的に見て革のコンディションを損なうリスクが高い行為なのです。
正しい革靴の水洗い、エマール以外の方法
- 革靴の丸洗い、ドブ漬けの手順
- 革靴の中を洗う際のポイント
- 丸洗い後の乾燥と乾燥時間の目安
- 革靴を水洗いする適切な頻度
革靴の丸洗い、ドブ漬けの手順

革靴の丸洗いは、一見難しそうに感じられますが、正しい手順と適切な道具を揃えることで、ご家庭でも安全に行うことができます。ここでは、最も一般的で安全な革専用のサドルソープを使用した、プロも実践する基本的な手順を詳しく解説します。
準備する道具リスト
- サドルソープ: 革専用の石鹸
- 馬毛ブラシ: ホコリ落とし用
- クリーニングブラシ: 洗浄用の少し硬めのブラシ
- クリーニングスポンジ: 泡立てや洗浄、すすぎ用
- 革靴用クリーナー: 古いクリーム除去用
- 乾いた布(数枚): クリーナー塗布や拭き取り用
- 洗面器やバケ-ツ: 靴が完全に浸かる大きさのもの
- タオル(数枚): 吸水性の高いもの
1. 準備とブラッシング
まず、靴紐をすべて外し、インソールが取り外せるタイプであればそれも取り出します。
次に、馬毛ブラシを使って、靴全体のホコリや表面の泥汚れを丁寧に、しかし優しく払い落とします。
特に、アッパーとソールの境目である「ウェルト」と呼ばれる部分や、メダリオン(穴飾り)の隙間には汚れが溜まりやすいため、ブラシの角などを使って念入りに掻き出してください。
2. 古いクリームの除去
やわらかく清潔な布に、革靴用のステインリムーバーやクリーナーを少量(指先に少し付ける程度)取ります。
そして、表面に残っている古い靴クリームやワックスを、力を入れずに優しく撫でるように拭き取っていきます。この工程を事前に行うことで、革の表面を覆っている油膜が除去され、後の洗浄成分が革の毛穴に均一に浸透しやすくなります。
3. 水に慣らす(ドブ漬け)
洗面器やバケツに、人肌より少し温かい35〜40℃程度のぬるま湯を溜めます。
冷水よりもぬるま湯の方が、革が驚かずに水分を吸収しやすく、汚れも浮きやすくなります。
靴全体をゆっくりと沈め、完全に水没させます。これが「ドブ漬け」と呼ばれる工程で、革に水分を均一に吸収させることで、洗浄ムラや水ジミを防ぐ最も重要なステップの一つです。
靴の中からポコポコと空気が抜け、全体がしっとりと水分を含むまで、5〜10分ほど浸しておきましょう。
4. サドルソープで洗浄
クリーニングスポンジやブラシをぬるま湯で湿らせ、サドルソープの表面をこすって、きめ細かいクリーミーな泡をたっぷりと立てます。
その泡を靴の表面全体に乗せ、クリーニングブラシを使って優しく円を描くように洗っていきます。
力を入れてゴシゴシ擦ると、濡れてデリケートになっている革の表面(銀面)を傷つける原因になります。泡で汚れを浮かせて分解するようなイメージで、リズミカルに洗浄するのがポイントです。
5. すすぎ
洗浄が終わったら、泡を洗い流します。
ここで注意したいのは、蛇口から直接水を勢いよくかけるのではなく、きれいな水を含ませたスポンジで、表面の泡を優しく拭き取るようにして落とすことです。
サドルソープには革を保護する保湿・加脂成分も含まれているため、完全に洗い流しきる必要はなく、表面の泡がなくなる程度で十分です。これを数回繰り返し、すすぎは完了です。
革靴の中を洗う際のポイント

革靴の不快な臭いや雑菌の温床となるのは、汗や皮脂が直接染み込む靴の内部です。
そのため、丸洗いを行う際は、外観をきれいにすること以上に、内側を徹底的に洗浄することが、快適な履き心地を取り戻すための最も重要な目的となります。
まず、前述の「ドブ漬け」の工程で、靴の内部にもぬるま湯をしっかりと行き渡らせることがスタート地点です。
これにより、ライニング(内側の革)や中底に染み込んで結晶化した汗の塩分などが水分に溶け出し、洗浄しやすい状態になります。
内部の洗浄には、使い古しの歯ブラシや、専用の少し小さめなクリーニングブラシが最適です。
サドルソープをよく泡立てたブラシを使い、ライニングやインソール(靴底)を優しく、しかし丹念にこすり洗いしていきます。特に、指の付け根が当たる部分や、体重がかかるかかと部分は汚れが蓄積しやすいので、意識して洗浄すると効果的です。
内部洗浄の注意点
靴の内部に使われているライニングレザーは、アッパー(外側の革)よりも薄くデリケートな場合が多いため、力を入れすぎるのは禁物です。あくまで泡の力で汚れを浮かすことを意識し、繊維を傷つけないように注意深く作業を進めてください。
そして、すすぎの工程では、靴内部に洗剤が残留しないよう、特に細心の注意を払います。
洗剤が少しでも残っていると、それが乾燥後に雑菌の栄養源となり、かえって臭いを悪化させる原因となるからです。
きれいな水を含ませたスポンジを靴の内部で絞り、溶け出した洗剤を吸収させる作業を、スポンジから出る水がきれいになるまで何度も繰り返します。
洗浄後は、内部の水分を乾いたタオルでできる限り拭き取っておくことが、後の乾燥工程をスムーズに進め、カビの発生リスクを低減させる上で非常に重要になります。
丸洗い後の乾燥と乾燥時間の目安
革靴の丸洗いの成否は、8割が「乾燥」工程で決まると言っても過言ではありません。
ここで手順を間違えると、これまでの丁寧な洗浄作業がすべて無駄になるだけでなく、縮みや型崩れ、ひび割れといった修復不可能なダメージにつながるため、最も慎重さと忍耐力が求められるステップです。
1. 徹底的なタオルドライ(初期吸水)
洗浄とすすぎが終わったら、まず吸水性の高い乾いたタオルを使い、靴全体の水分を優しく押し当てるようにして拭き取ります。
ゴシゴシと擦るのは、濡れて敏感になっている革の表面を傷つけるため厳禁です。
次に、靴の内部に丸めたタオルや、吸水性に優れた新聞紙、キッチンペーパーなどを隙間なく詰め込み、内側に残った水分を徹底的に吸収させます。
特に新聞紙は非常に効果的ですが、インクが薄い色のライニングに移る可能性もゼロではないため、気になる場合はキッチンペーパーを使用すると安心です。
このとき詰めた紙は、15〜30分おきに最低でも3〜4回は新しいものに交換してください。この初期吸水を丁寧に行うかどうかが、全体の乾燥時間を大きく左右します。
2. 陰干しとシューキーパーの挿入タイミング
表面の水滴がなくなり、全体が「しっとり」と湿っている状態になったら、風通しの良い日陰で本格的な乾燥を開始します。この段階ではまだシューキーパーは入れず、靴を壁に斜めに立てかけるなどして、靴の内部に空気が通りやすい状態を作ることが優先です。
数時間から半日ほど経ち、革の表面がある程度乾いて硬さが戻ってきた「半乾き」のタイミングで、ようやくサイズの合ったシューキーパーを挿入します。
このタイミングが非常に重要で、革が適度に水分を含んでいる状態で形を固定することで、乾燥による過度な収縮を防ぎ、靴本来の美しいフォルムを保ったまま乾燥させることができます。
3. 完全乾燥までの道のり
シューキーパーを入れた状態で、引き続き風通しの良い日陰で、革の内部まで完全に乾ききるのを待ちます。
焦りは禁物です。扇風機の最も弱い風を、直接ではなく部屋の空気を循環させるように遠くから当てると、乾燥を安全に促進させるのに効果的です。
乾燥にかかる時間の目安は、季節やその日の湿度、革の厚みによって大きく変動しますが、最低でも3日間、厚手の革や湿度の高い季節であれば1週間以上かかることも珍しくありません。
表面が乾いているように見えても、最も乾きにくい爪先の内部にはまだ湿気が残っていることが多いのです。履く前に必ず靴の内部に手を入れ、ひんやりとした湿り気を感じないかを確認してください。ここで妥協すると、カビ発生の最大原因となります。
革靴を水洗いする適切な頻度

革靴の水洗いは、靴をリフレッシュさせる非常に効果的な方法ですが、革にとっては大きな負担を伴う「大手術」のような特別なケアと位置づけるべきです。
したがって、頻繁に行う必要は全くありません。むしろ、過度な水洗いは革の寿命を縮めることになりかねません。
理想的な頻度としては、年に1回から、多くても2回程度が適切な目安と考えられます。例えば、以下のようなタイミングで計画的に行うのが良いでしょう。
- シーズンの終わり: 特に汗を大量にかく夏が終わった秋口や、雨や雪で汚れやすい冬が終わった春先など、衣替えのタイミングで靴もリセットする。
- 長期保管前: しばらく履く予定のない革靴を保管する前に、一度リフレッシュさせてから収納する。
その他、突発的なケースとして、ゲリラ豪雨などで靴の中まで完全にずぶ濡れになってしまった場合や、乾燥後にアッパー表面に白い塩(塩吹き)がくっきりと浮き出てきてしまった場合なども、水洗いを行うべき適切なタイミングと言えます。
このような状況では、革の内部に浸透した不純物を一度リセットするために、丸洗いが非常に有効な手段となります。
基本は日々の地道なケア
大切なのは、水洗いのような特別なケアに頼ることではなく、日々の地道なメンテナンスを習慣にすることです。
履いた後には必ずブラッシングでその日のホコリを落とし、月に1〜2回程度、クリーナーで汚れを落としてから栄養クリームを補給する。
この基本的なサイクルを徹底していれば、革は常に良いコンディションを保ち、大掛かりな水洗いの頻度を最小限に抑えながら、革靴をより長く美しく履き続けることができます。
まとめ:革靴の水洗い、エマール使用の注意点と正しい方法
- 革靴の水洗いは正しい手順を踏めば可能だが革の種類を慎重に選ぶ必要がある
- エマールやアクロンといったおしゃれ着用洗剤での水洗いは強く非推奨
- おしゃれ着用洗剤は革に不可欠な油分を過剰に奪いすぎるリスクが極めて高い
- 油汚れに強い食器用洗剤や添加物を含むボディソープでの洗浄は絶対に行わない
- 革靴の洗浄には保湿成分を含む専用のサドルソープが最も安全で確実
- 水洗い前には馬毛ブラシで全体のホコリを完全に除去することが大切
- 表面の古い靴クリームは革靴用クリーナーで事前に拭き取っておく
- ぬるま湯に完全に浸ける「ドブ漬け」が水ジミや洗浄ムラを防ぐ鍵
- 洗浄時は力を入れずサドルソープの泡の力で優しく洗うことを心がける
- 臭いの元となる靴の内部もクリーニングブラシで丁寧に洗浄する
- すすぎは洗剤成分を軽く流す程度に留め完全に洗い流しきらない
- 洗浄後は吸水性の高いタオルで内外の水分を徹底的に拭き取る
- 乾燥は必ず直射日光を避けた風通しの良い日陰で行う
- ドライヤーやストーブなど熱による急激な乾燥は革の硬化やひび割れを招き厳禁
- 半乾きの状態でシューキーパーを挿入し乾燥による型崩れと縮みを防ぐ
- 完全に乾燥するまでには最低3日から1週間以上の時間と忍耐が必要
- 革靴の水洗いの適切な頻度は年に1回から2回が目安
- 水洗いは最終手段と考え普段のブラッシングやクリームでのケアを基本とする