
こんにちは。レザーソールズ:ローファー・革靴・スリッポン選び方ガイドです。
冬の寒さが厳しくなると、あのふかふかで温かいムートンスリッポンやモカシンシューズが恋しくなりますよね。
「UGG(アグ)」の『Ansley(アンスレー)』や『Dakota(ダコタ)』、「EMU Australia(エミュー)」の『Cairns(ケアンズ)』といった人気モデルは、一度履いたら手放せないほどの快適さと可愛さがあります。
しかし、購入した多くの人を悩ませているのが、歩くたびに踵(かかと)がパカパカと浮いてしまう「ヒールスリップ(踵脱げ)」という現象です。
最初は「ちょっと緩いかな?」程度だったのに、数週間履いているうちにブカブカになり、階段の上り下りで靴が脱げそうになってヒヤッとした経験がある方も多いのではないでしょうか。
実は、この「脱げる」という現象は、単なるサイズ選びのミスだけが原因ではありません。
ムートンブーツ特有の構造的な要因と、素材の劇的な変化が複雑に絡み合って起きる、いわば「避けられない宿命」のようなものなのです。
私自身、過去に何度もサイズ選びで失敗し、せっかくの高価な靴をタンスの肥やしにしてしまった苦い経験があります。だからこそ、「なぜ脱げるのか」を徹底的に調べ、様々な対策グッズを試してきました。
この記事では、ムートンスリッポンの構造的な弱点を踏まえた上で、今日から実践できる具体的な対策を余すところなくご紹介します。
購入前のサイズ選びの極意から、100円ショップのアイテムを使った賢い調整術、そしてヘタってしまったボアを復活させるプロ並みのメンテナンス術まで、あなたの悩みを解決するための情報を網羅しました。
ムートンスリッポンが脱げる原因と基本の対策

対策を講じる前に、まずは敵を知ることが重要です。
なぜスニーカーやパンプス以上に、ムートンスリッポンはこれほどまでに脱げやすいのでしょうか。
その原因を深掘りしていくと、私たちが普段良かれと思って選んでいる「履き心地の良さ」そのものが、実は脱げやすさを助長しているという皮肉な事実に突き当たります。
なぜ脱げる?踵が浅い構造とボアのヘタリ
ムートンスリッポンが脱げる最大の要因は、その「構造」と「素材の変化」にあります。これを理解していないと、どんな対策グッズを使っても一時的な効果しか得られません。
まず構造的な問題ですが、スリッポン(Slip-on)という名前の通り、この靴には足を固定するためのシューレース(靴紐)やストラップが存在しません。
一般的な革靴やスニーカーは、紐で甲(インステップ)を締め上げることで、靴底を足裏に密着させる「リテンションシステム(保持機構)」を持っています。
しかし、ムートンスリッポンはこの機構を持たず、足をただ滑り込ませるだけの構造です。
さらに、脱ぎ履きのしやすさを優先して踵部分(ヒールカップ)が非常に浅く設計されており、踵をホールドする芯材(カウンター)も柔らかいため、歩行時に踵が持ち上がった際、靴が足についてこられずに脱げてしまうのです。
次に、より深刻なのが「二重の拡張」と呼ばれる素材の変化です。これは、アッパーの「革の伸び」とライニングの「ボアのヘタリ」が同時に進行する現象を指します。
二重の拡張とは?
- 革の伸長(Stretching):シープスキン(羊革)は非常に柔軟性が高いため、歩行時の圧力によって足の形に馴染み、横方向にも縦方向にも伸びていきます。
- ボアの圧縮(Compression Set):新品時は垂直に立っていた羊毛が、体重と摩擦によって踏み固められ、寝てしまいます。これにより、内部の空間が物理的に広がります。
この2つが同時に起こることで、購入からわずか数週間で靴の内部空間(容積)は数ミリから1センチ近くも拡大してしまいます。
靴のサイズにおいて1センチの差は致命的です。
つまり、「最初はきつくて痛いくらいだったのに、今は指一本入るほどブカブカ」という現象は、不良品でもサイズ選びのミスでもなく、ムートンという素材の特性上、必然的に起こることなのです。
さらに、最近流行の厚底(プラットフォーム)モデルは、ソールの屈曲性(返り)が悪く、重さもあるため、テコの原理で踵が脱げやすくなる傾向がさらに強まります。
これらの要因が重なり合うことで、ムートンスリッポンは「世界で最も脱げやすい靴の一つ」となってしまっているのです。
失敗しないサイズ選びは購入時にきついのが正解
もし、これから新しいムートンスリッポンを購入しようと考えているなら、これまでの靴選びの常識を一度捨ててください。
特に「捨て寸(つま先の余裕)を1cm確保する」というスニーカー選びの鉄則は、ムートンにおいては「脱げ」を招く最大の失敗要因となります。
ムートンスリッポンのサイズ選びの正解は、ズバリ「新品の段階では、かなりきつめ(タイト)を選ぶこと」です。
多くの販売スタッフや愛用者が口を揃えて言うように、初期段階での「窮屈さ」こそが、将来の「ジャストフィット」を約束してくれます。
具体的には、足を入れた瞬間に「うわっ、これは小さいかも?」と感じるくらいが適正サイズである可能性が高いです。以下のチェックリストを参考にしてみてください。
| 感覚 | 判定 | 理由 |
|---|---|---|
| 親指の爪が当たる | 〇(適正) | ボアが沈めば数ミリの空間が生まれるため、痛みがない程度ならOK。 |
| 履き口が狭く入りにくい | 〇(適正) | 履き口の革も伸びてくるので、最初は靴ベラが必要なくらいで良い。 |
| 踵が浮く・隙間がある | ×(危険) | 新品で浮く場合、馴染んだ後は確実に脱げる靴になります。 |
| 指が楽に動かせる | △(注意) | 厚手の靴下専用なら良いが、素足やタイツで履くなら大きすぎる可能性大。 |
基本的には、実寸(裸足のサイズ)と同じか、ハーフサイズ(0.5cm)下のサイズを選ぶのがセオリーです。
例えば、普段23.5cmのスニーカーを履いている方なら、23.0cm(US6)を選ぶ勇気を持ってください。最初は圧迫感がありますが、天然のシープスキンは驚くほど足に馴染みます。
「痛くて歩けない」レベルでなければ、その窮屈さは1週間以内に解消され、やがて「皮膚の一部のようなフィット感」へと変化します。
逆に、最初から快適なサイズを選んでしまうと、1ヶ月後にはインソールや詰め物なしでは歩けない「ガバガバの靴」になってしまうでしょう。
なお、UGGの公式サイトでも、一部のモデルやコレクションにおいては、革の伸びを考慮してサイズダウンを推奨する旨の記載が見られることがあります。メーカーもこの特性を十分に理解しているのです。
(出典:UGG®公式『サイズ選びについて』)
UGGとEMUで違うサイズ感と選び方のコツ
ムートンシューズの二大巨頭である「UGG(アグ)」と「EMU Australia(エミュー)」。
デザインは似ていますが、実際に履き比べてみると、そのフィッティングや素材感には明確な違いがあります。この違いを理解せずに「UGGでUS6だったからEMUもUS6でいいや」と選んでしまうと、思わぬ落とし穴にハマることがあります。
UGG(アグ):柔軟性と馴染みの早さが特徴

UGGの最大の特徴は、最高品質の「ツインフェイス・シープスキン」が生み出す、圧倒的な柔らかさと軽さです。アッパーの革が非常にしなやかであるため、足馴染みが驚くほど早いです。
特に人気No.1モデルの『Ansley(アンスレー)』は、履き口は狭めに設計されていますが、内部の革は伸びやすく、ボアもふわふわで沈み込みが大きいです。
そのため、UGGを選ぶ際は「迷ったら小さい方」を選ぶのが鉄則です。「最初はキツすぎて返品しようか迷ったけど、半日履いたら馴染んだ」というレビューが後を絶たないのは、この柔軟性ゆえです。
EMU Australia(エミュー):剛性と耐久性が特徴

一方、EMUは「Water Resistant(撥水)」加工が施されたシープスキンを使用しているモデルが多く、UGGに比べると革にハリがあり、少し硬めの印象を受けることが多いです。
また、内側のボアも密度が高く、弾力が強いため、足を入れた時の「押し返される感覚」が強いのが特徴です。さらに、ソールもしっかりとした剛性があるため、初期段階では「きつい上に硬い」と感じやすいかもしれません。
しかし、ここでサイズを上げてしまうのは危険です。EMUのボアもいずれはヘタります。
EMUの場合は、ジャストサイズを選んで、馴染むまでの数日間を「慣らし期間」として割り切るか、最初は薄手の靴下で過ごすなどの工夫が必要です。
ただし、甲高・幅広の足の方で、どうしてもEMUの甲部分がきつい場合は、ハーフサイズアップしてインソールで調整するという選択肢も視野に入れてください。
脱げないための靴下選びとココピタの活用
靴のサイズは変えられなくても、足と靴の間の「インターフェース」であるレッグウェア(靴下やタイツ)を変えるだけで、脱げにくさは劇的に改善します。ここで重要になる物理法則が「摩擦係数」です。
まず、ムートンスリッポンにとって最悪の相性と言えるのが、「ナイロン製のタイツやストッキング」です。
これらの素材は表面が非常に平滑でツルツルしているため、ボアとの間でほとんど摩擦が生まれず、氷の上を滑るように足が前後に動いてしまいます。
さらに冬場は乾燥により静電気が発生しやすく、これが反発力となって余計に脱げやすさを助長することもあります。
脱げ対策として推奨されるのは、「コットン(綿)」や「ウール(羊毛)」などの天然素材を含んだソックスです。
これらの繊維は表面に微細な凹凸があり、ボアの繊維と絡み合うことで強力なグリップ力を発揮します。特にリブ編みやパイル地など、表面に凹凸のある編み方のソックスは効果絶大です。
しかし、「スリッポンからは靴下を見せたくない」「素足風に履きたい」という方も多いでしょう。そんな時に最強の味方となるのが、株式会社岡本が販売している「脱げないココピタ」などの機能性フットカバーです。
機能性フットカバー選びのポイント
ただのフットカバーでは靴の中で丸まってしまい、余計にストレスになります。必ず以下の特徴を持つものを選んでください。
- コの字型ストッパー:踵を包み込むように配置されたシリコン製の滑り止めがあること。
- 深履きタイプ:スリッポンからはみ出さないギリギリの深さがあるもの(浅すぎると脱げやすい)。
- 足底滑り止め:靴の中での前滑りを防ぐグリップがついているもの。
これらを活用することで、靴の中で足が「ロック」され、踵が浮く現象を物理的に抑え込むことができます。
また、タイツを履く場合は、タイツの上から「静電気防止スプレー(エレガードなど)」を吹きかけておくと、滑りを抑制しつつ、まとわりつきも防げるのでおすすめです。
ペット用ブラシでボアを復活させフィット感を戻す
「最初はぴったりだったのに、最近ブカブカで脱げるようになってきた…」という場合、その原因のほとんどはボアの「ヘタリ」です。
体重で押しつぶされ、汗や皮脂で固まってしまったボアは、厚みを失い、靴の中に大きな空洞を作ってしまいます。
この状態からフィット感を復活させる裏技として、多くの愛好家が実践しているのが「ペット用スリッカーブラシ」による起毛メンテナンスです。これは犬や猫の毛玉をほぐすためのブラシで、100円ショップのペット用品売り場でも簡単に入手できます。
ボア復活メンテナンスの手順
- ブラシの準備:細い金属ピンがついたスリッカーブラシを用意します。
- 掻き出し:靴の中に手を入れ、ペタンコになった部分(特にインソールと踵周り)にブラシを当て、毛の根元から空気を含ませるように優しく掻き出します。最初は毛並みに逆らって起こすのがコツです。
- 仕上げ:全体がフワフワに立ち上がったら、毛並みを整えます。絡まっていた抜け毛がたくさん取れるので、掃除機で吸い取ります。
この作業を行うと、寝ていた毛が立ち上がり(ロフト回復)、ボアのボリュームが劇的に戻ります。
復活したボアが再び足の隙間を埋めてくれるため、購入当初のようなタイトなフィット感が蘇るのです。さらに、空気の層ができることで保温性もアップし、見た目も美しくなるという、まさに一石三鳥の効果があります。
注意点:あまり強くガリガリとやりすぎると、ボアが植えられている土台の皮を傷つけてしまう恐れがあります。あくまで「毛をほぐす」イメージで、力加減を調整しながら行ってください。
100均グッズでムートンスリッポンの脱げる対策

サイズ選びやメンテナンスだけでは対処しきれない、あるいはすでに大きすぎるサイズを買ってしまった…という場合でも諦めないでください。
ここからは、ダイソーやセリアなどの100円ショップで手に入るアイテムを駆使した、物理的な「隙間埋め」と「脱げ防止」のテクニックを解説します。
ダイソーやセリアで買える踵脱げ防止グッズ
100円ショップの靴用品コーナーに足を踏み入れると、その種類の豊富さに驚かされますよね。
ジェルタイプ、クッションタイプ、布製、シリコン製など、様々な「かかとパッド」や「サイズ調整グッズ」が並んでいます。しかし、これらを適当に選んでしまうと、「すぐに剥がれた」「逆に痛くなった」「全く効果がなかった」という失敗に繋がります。
ムートンスリッポンの脱げ対策において重要なのは、自分の靴の状態(どれくらい緩いのか)に合わせて、最適な厚みと素材を選ぶことです。
ここでは、主要な100円ショップで見つけられる代表的なアイテムと、それぞれの特徴、そしてムートンスリッポンへの適合性を徹底比較します。私が実際に店舗を回って確認した傾向をまとめましたので、買い出しの参考にしてください。
| ショップ | 主な製品タイプ | 特徴・メリット | ムートンへの適合性・用途 |
|---|---|---|---|
| DAISO(ダイソー) | 厚手ジェルパッド 低反発クッション | ボリューム感のある製品が多い。厚みがしっかりあるため、物理的に大きな隙間を埋めるのに適している。 | 【サイズがかなり大きい時】 「指一本入る」レベルの隙間がある場合、ダイソーの厚手パッドで強制的に空間を埋めるのが有効。 |
| Seria(セリア) | 薄型ジェルパッド 靴擦れ防止シール | 薄くて目立ちにくいデザインや、肌当たりの優しい製品が充実。透明タイプも多く、美観を損なわない。 | 【微調整・靴擦れ対策】 「サイズは悪くないが少し滑る」「踵が擦れて痛い」場合に最適。素足で履く時の保護にも。 |
| CanDo(キャンドゥ) | 立体形状パッド かかと包み込み系 | 踵のカーブに合わせた立体的な形状や、ホールド力を重視した特殊形状の製品が見つかることがある。 | 【踵が浅い靴の補助】 モカシンのように踵が浅い靴でも、立体パッドが「擬似的なヒールカウンター」となり、引っ掛かりを作ってくれる。 |
選び方の基本戦略としては、まず「隙間の大きさ」を見極めます。
履いた状態で踵に小指が入ってしまうほどブカブカなら、迷わずダイソーの厚手タイプ(ジェルや低反発素材)を選んでください。逆に、サイズ感はそこまで悪くないけれど、歩く瞬間に少し浮く感覚がある程度なら、セリアの薄型パッドや起毛素材のパッドが良いでしょう。
特に起毛タイプのパッドは、ムートンのボアと質感が似ているため、見た目の違和感が少なく、摩擦力もそこそこあるのでおすすめです。
また、材質による違いも重要です。ジェルタイプ(シリコンやウレタン)は摩擦係数が非常に高く、ストッキングでも滑りにくいという強力なメリットがありますが、汗を吸わないため夏場は蒸れやすいというデメリットがあります。
一方、布製(クッション)タイプは肌当たりが優しく蒸れにくいですが、表面がサラサラしていると滑り止め効果はジェルに劣ります。
冬場のムートンであれば、防寒性も兼ねて布製やスエード調のものを選ぶか、強力なグリップが必要ならジェルタイプを選ぶ、というように使い分けると良いでしょう。
かかとパッドの効果的な貼り方と位置
最適なパッドを手に入れても、貼る位置を間違えると効果は半減、いやゼロになってしまうこともあります。
「とりあえず踵の真ん中あたりに貼っておけばいいだろう」と思っていませんか? 実は、ムートンスリッポンの脱げ防止において、パッドを貼るべき「スイートスポット」は一点のみです。
正解の位置は、「踵の上縁(トップライン)ギリギリ」です。
なぜなら、ヒールスリップ(踵脱げ)を防ぐメカニズムは、踵の骨(踵骨)の後ろに出っ張った部分に靴の履き口が引っかかることで成立しているからです。
ムートンスリッポンはこの履き口が広く浅いため、引っかかりが得られません。そこで、パッドを履き口の縁(フチ)ギリギリに貼ることで、人工的に「引っかかり(段差)」を作り出すのです。
これを踵の底の方や真ん中に貼ってしまうと、単に足が前に押し出されるだけで、肝心の「抜け止め効果」が働きません。もし靴が少しきつい場合は位置を少し下げ、逆に緩すぎる場合は少し上に貼ることで、微妙なフィッティング調整も可能です。
最大の難関:ボアへの接着問題
ここで多くの人が直面する最大の壁が、「ボアの上からだと粘着テープがくっつかない」という問題です。ムートンの内側はフワフワの毛で覆われているため、パッド付属の粘着テープでは数分で剥がれてしまいます。
この問題を解決するために、私は以下の3つのアプローチを試しました。それぞれのメリット・デメリットを比較して、ご自身に合った方法を選んでください。
- 【荒療治】ボアをカットする(推奨度:中)
貼る位置のボアだけをハサミで短く刈り込み(トリミング)、土台の革を露出させてから貼る方法です。粘着力は確実にアップしますが、靴にハサミを入れる勇気が必要ですし、失敗するとチクチクする可能性があります。 - 【強力固定】靴用ボンドを使用する(推奨度:高)
コニシの「ボンド G17」や靴修理専用の接着剤を使って、ボアの上から強引に貼り付けます。ボアの繊維ごと固めてしまうため接着力は最強ですが、二度と綺麗に剥がすことはできません。「この靴はこのパッドと心中する」という覚悟がある場合に有効です。 - 【手仕事】縫い付ける(推奨度:特大)
私が最もおすすめする方法です。パッドの四隅を針と糸でボア(またはライニングの革)に縫い付けてしまいます。裁縫スキルが少し必要ですが、確実に固定され、絶対にズレません。しかも、不要になれば糸を切るだけで元通りになり、靴へのダメージも最小限で済みます。100均の裁縫セットで十分対応可能です。
インソールで底上げしてサイズ調整する方法
踵だけでなく、甲周りも含めて全体的に靴が緩んでしまった場合、踵パッドだけでは対処しきれません。
そんな時に役立つのが「インソール(中敷き)」による容積調整、いわゆる「底上げ」です。靴底全体に厚みを足すことで、足の位置を高くし、アッパー(甲)との隙間を埋めて密着度を高める手法です。
ここで特におすすめしたいのが、ダイソーなどで冬季限定で販売される「ボアインソール」や、靴量販店で手に入るミネトンカ等の「フェイクファーインソール」です。
なぜボアインソールが良いのでしょうか。理由は2つあります。一つ目は「リセット効果」です。履き古してヘタってしまった純正のボアの上に、新品のフカフカなボアインソールを敷くことで、失われたクッション性とボリュームを物理的に復活させることができます。
これにより、サイズ感が「新品時のタイトな状態」にリセットされます。二つ目は「見た目の自然さ」です。脱いだ時に普通のインソールが見えると少し残念ですが、ボア素材なら元々のデザインと馴染んで違和感がありません。
ただし、インソールを使用する際には、ムートンスリッポンならではの重大な副作用に注意する必要があります。それは「踵が浅くなる問題」です。
インソールのジレンマ
インソールを入れて足を底上げすると、当然ながら踵の位置も高くなります。しかし、ムートンスリッポンは元々ヒールカップ(踵の深さ)が浅い靴です。
底上げによってさらに踵が浅くなってしまい、甲のフィット感は良くなったのに、踵の引っかかりがなくなって余計に脱げやすくなる…という本末転倒な事態が起こり得るのです。
このジレンマを解消するためには、「フルインソール(全敷き)」ではなく、「つま先用ハーフインソール」を使うか、あるいはインソールの踵部分だけをカットして使うという工夫が必要です。
もしフルインソールを入れるなら、前述した「踵パッド」との併用が必須条件になると考えてください。「底上げで浅くなった踵を、パッドで補う」という合わせ技が、攻略の鍵となります。
つま先に詰め物をしてカパカパを防ぐ裏技

ここまで紹介した「踵パッド」や「インソール」でも解決しない、あるいは踵が浅くなるのを避けたい…。そんな時に試してほしいのが、意外と知られていない盲点的なアプローチ、「つま先への詰め物(クッション)」です。
「えっ?脱げるのは踵なのに、つま先に対策するの?」と不思議に思うかもしれません。しかし、これには明確な力学的根拠があります。
靴が脱げる(踵が浮く)時、靴の中で足は前方に滑っています。つまり、つま先側に余計な空間(捨て寸)がありすぎるために、足が前へ逃げてしまい、踵がヒールカップから離れてしまうのです。
そこで、つま先の空間にクッション(スポンジや低反発素材)を詰めることで、物理的に足を踵側(後ろ)へ押し戻すのです。
足が後ろへ押し付けられると、踵はヒールカウンターに強制的に密着せざるを得なくなります。結果として、歩行時に踵が持ち上がっても靴がしっかりと追従してくるようになります。
これは、サイズが大きすぎて「カパカパ」する現象に対して、非常に強力な効果を発揮します。
使用するアイテムは、靴屋さんで売っている「つま先調整クッション」がベストですが、手元になければ柔らかいスポンジや、最悪の場合はティッシュペーパーを詰めて試してみることもできます(あくまで応急処置ですが)。
ポイントは、指先が圧迫されて痛くならないよう、低反発などの柔らかい素材を選ぶこと。そして、詰めすぎると今度は爪が当たって痛くなるので、厚みの微調整を行うことです。
つま先用ハーフインソールとの違い
似たアイテムに「つま先の下に敷くハーフインソール(パッド)」がありますが、あれは主に「前滑り防止」と「底上げ」が目的です。
今回紹介しているのは「つま先の空間(奥)に詰める詰め物」であり、目的は「足を後ろへ押し戻すこと」です。役割が異なるので混同しないようにしましょう。
最終手段としてのシューズバンドやリペア

あらゆるグッズを試し、工夫を凝らしても、どうしても脱げてしまう…。そんな「対策不能レベル」の状態になってしまった場合の最終手段をご紹介します。ここまで来ると、靴の見た目を少し変えるか、プロの手を借りる必要があります。
シューズバンド(ミュールバンド)による物理固定
これはパンプスなどでよく使われるアイテムですが、ムートンスリッポンにも有効です。透明なシリコンゴムや、ゴム入りのファブリックバンドを甲部分に通し、靴と足を物理的に縛り付けて一体化させます。
正直なところ、スリッポンのシンプルで可愛いデザインを損ねてしまうというデメリットはあります。しかし、「脱げるストレス」と「転倒のリスク」を完全にゼロにできる唯一の方法でもあります。
100円ショップでも透明タイプが販売されています。「今日は長時間歩く」「絶対に脱げたくない」という日限定で装着する、という使い方も賢い選択です。
プロフェッショナル・リペア(靴修理)
「見た目を変えたくないし、愛着のある靴だから長く履きたい」という方は、街の靴修理専門店(ミスターミニットなど)に相談することをおすすめします。
プロが行う代表的な修理メニューに「腰裏(こしうら)補修」や「カウンターライニング補修」があります。
これは、擦り切れた踵の内側に新しい革(スエードなど)を上から貼り付ける修理ですが、この際に厚みのあるスポンジを中に仕込んでもらうことで、強力なサイズ調整と滑り止め効果を持たせることができます。
起毛したスエード革は摩擦係数が高く、靴下とのグリップ力が抜群です。
費用は両足で3,000円〜5,000円程度かかることが一般的ですが、100均グッズとは比べ物にならない美しい仕上がりと耐久性が手に入ります。お気に入りのUGGやEMUを数シーズン履き続けたいなら、決して高い投資ではありません。
ムートンスリッポンが脱げる対策で快適に歩こう
ここまで、ムートンスリッポンが脱げる原因から、サイズ選びの鉄則、そして100均グッズやメンテナンスによる対策まで、長きにわたってお伝えしてきました。最後に、これらの対策を状況別に整理して、この記事のまとめとさせていただきます。
ムートンスリッポンは、その構造上「脱げやすい」という宿命を背負った履物です。しかし、適切な知識と少しの工夫があれば、そのデメリットを克服し、雲の上を歩くような最高の履き心地を堪能することができます。
【保存版】ムートン脱げ対策フローチャート
- 【フェーズ1:購入前】
未来の伸びを予測し、「ハーフサイズ下」または「キツめのジャストサイズ」を選ぶ。踵が浮かないことを最優先にする。 - 【フェーズ2:購入直後〜軽度の緩み】
滑りやすいタイツは避け、綿・ウール素材の靴下や、踵ストッパー付きの「ココピタ」を着用する。静電気防止スプレーも活用。 - 【フェーズ3:使用によるヘタリ】
ペット用スリッカーブラシでボアを起毛させ、失われたボリュームとフィット感を復活させる。 - 【フェーズ4:顕著なサイズ不適合】
100均のボアインソールで底上げするか、ダイソーの厚手パッドを踵のトップラインに(縫い付けて)設置する。 - 【フェーズ5:対策困難なレベル】
つま先にクッションを詰めて足を後ろへ固定する。それでも駄目ならシューズバンドを使うか、プロのリペアを依頼する。
「お洒落は我慢」なんて言葉もありますが、靴に関しては我慢は禁物です。脱げる靴を無理に履き続けることは、足への負担だけでなく、歩行姿勢の悪化や転倒事故にも繋がりかねません。
今回ご紹介した方法を一つずつ試して、あなたの足にシンデレラフィットする対策を見つけてください。
この記事が、あなたの冬の足元をより暖かく、より快適にする手助けになれば幸いです。最後までお読みいただき、ありがとうございました。